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2017-10

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「黒塚」(安達原)~真麻苧の絲を繰返し。昔を今になさばや。

能の「黒塚」(安達原)を見てみます
鬼女とわびしい糸繰り車の取り合わせが幽玄な感じです
能の美意識は独特です




黒塚(安達原)

金春禅竹作か。
五番目物。太鼓あり。観世流のみ「安達原」

ワキ──東光坊祐慶
ワキツレ二人──同行山伏
シテ──老女
後シテ──鬼女




あらすじ

熊野の山伏たちが巡礼で、陸奥、安達原に来ていた。そこで老女に出会い宿を借りる。出かける間部屋の中を見ないという老女との約束をやぶって見ると、そこには死体の山があった。驚いた山伏たちが逃げると、老女が鬼の姿になっておいかけてくる。山伏達は祈り、鬼は折伏されて消え去る。



諸国一見の僧にて候



──能を見はじめた最初に印象的な詞章です
駄洒落のような気がするし・・・
あちこちの作品に登場します
この作品では少し違うバリエーションです
僧には名前もついていてお供もいます

まず山伏たちの次第ではじまります

次第「旅の衣は篠懸の。旅の衣は篠懸の。
露けき袖やしほるらん。」



熊野の順礼廻国は。皆釈門の習なり



巡礼のために諸国を回ることは
僧の当然のつとめ、らしいです

道行きのあと、安達原に到着します

急ぎ候ふ程に。これははや陸奥の安達が原に着きて候。
あら笑止や日の暮れて候。
このあたりには人里もなく候。
あれに火の光の見え候ふ程に。立ちより宿を借らばやと存じ候。



その宿の主は老女(中年女?)です
ここでは老女として(趣味)見てみます

シテ(老女)の登場です

シテサシ
「実にわび人の習ほど。悲しきものはよもあらじ。
かゝる憂き世に秋の来て。
朝けの風は身にしめども。
胸を休むる事もなく。
昨日も空しく暮れぬれば。
まどろむ夜半ぞ命なる。
あら定めなの生涯やな。



こんな感じで登場します
本心でいってるのか、鬼が山伏達をあざむくために言っているのか
どっちともとれるようです

ともかく、シテと山伏が会話をして
シテは親切に山伏たちに宿を貸します

シテ
「人里遠き此野辺の。松風はげしく吹きあれて。
月影たまらぬ閨の内には。いかでか留め申すべき。

ワキ「よしや旅寐の草枕。今宵ばかりの仮寐せん。
ただただ宿をかし給へ。

シテ「我だにも憂き此庵に。
ワキ「たゞ泊らんと柴の戸を。
シテ「さすが思へば痛はしさに。
地歌「さらばとゞまり給へとて。
樞(とぼそ)を開き立ち出づる。
異草(ことくさ)も交る茅莚(かやむしろ)。
うたてや今宵敷きなまし。強ひても宿をかり衣。
かたしく袖の露ふかき。草の庵のせはしなき。
旅寐の床ぞ物うき、旅寐の床ぞ物うき。



彼女は糸繰りをしはじめます
山伏たちはその道具について質問し彼女は答えます

シテ詞
「さん候。これはわくかせ輪とて。
いやしき賎の女のいとなむ業にて候。



枠かせ輪──とは、糸を巻き取る道具、糸繰り車のことです

シテ「月もさし入る。
ワキ「閨の内に。
地次第「真麻苧(まそを)の絲を繰返し。
真麻苧の絲を繰返し。昔を今になさばや。

シテ「賎(しず)が績苧(うみそ)の夜までも。
地「世わたる業こそものうけれ。
シテ「あさましや人界に生を受けながら。
かゝる憂き世に明け暮らし。身を苦しむる悲しさよ。



この「くり返し 昔を今になさばや」
他の能にもよく登場します
「しずやしずしずのおだまきくり返し
 昔を今になすよしもがな」
はなんだったっけ?

元は「伊勢物語」三十二の

いにしへの しづのをだまき くりかへし
 昔を今に なすよしもがな



です
能の詞章は、和歌や古典に基づくところがいっぱいあります

彼女は、卑しい暮らしを嘆きます
山伏たちは慰めます

ワキサシ「はかなの人の言の葉や。まづ生身を助けてこそ。
仏身を願ふ便もあれ。
地「かゝる憂き世にながらへて。明暮ひまなき身なりとも。
心だに誠の道にかなひなば。祈らずとても終になど。
仏果の縁とならざらん。



シテは仏教的無常観を語ります
なかなか教養があります

クセ「唯これ地水火風の仮にしばらくもまとはりて。
生死に輪廻し
五道六道にめぐる事、唯一心の迷なり。
凡そ人間の。あだなる事を案ずるに
人更に若きことなし、終には老となるものを。
かほどはかなき夢の世をなどや厭はざる我ながら。
あだなる心こそ、恨みてもかひなかりけれ。



次のロンギでは、源氏物語などの古典に基づいた
美しい対話になっています
そして最後にはやはり
シテは悲しみ嘆くのです

ロンギ地「そもそも五条あたりにて夕顔の宿を尋ねしは。
シテ「日陰の糸の冠着し。それは名高き人やらん。
地「賀茂のみあれにかざりしは。
シテ「糸毛の車とこそ聞け。
地「糸桜。色もさかりに咲く頃は。
シテ「くる人多き春の暮。
地「穂に出づる秋の糸薄。
シテ「月に夜をや待ちぬらん。
地「今はた賎が繰る糸の。
シテ「長き命のつれなさを。
地「長き命のつれなさを
思ひ明石の浦千鳥
音をのみひとり泣き明かす
音をのみひとり鳴き明かす。



シテはおもてなしに焚火をするので
木を取りに行くといいます
そして留守の間、閨の中を見るなといいます

シテ「あまりに夜寒に候ふ程に。
上の山に上り木を取りて。焚火をしてあて申さうずるにて候。暫く御待ち候へ。
ワキ「御志ありがたうこそ候、さらば待ち申さうずるにて候。やがて御帰り候へ。
シテ「さらばやがて帰り候ふべし。
や。いかに申し候。
妾が帰らんまで此閨の内ばし御覧じ候ふな。
ワキ「心得申し候。見申す事は有るまじく候。御心安く思し召され候へ。
シテ「あらうれしや候。
かまへて御覧じ候ふな。
此方の客僧も御覧じ候ふな。
ワキツレ「心得申し候。



三回も見るな、と言ったところで
彼女は出かけてゆき、舞台は中入です
そして山伏たちは、
しつこく禁じられたために逆に好奇心を持って
部屋をのぞきます
それは間狂言で表されます

さん候、主の閨の内を見て候へば、
死骨白骨は数知らず、
人の死骸は軒と等しく積み重ね、
その上、鞠ほどの光り物が幾つもござある



恐怖のあまり山伏たちは逃げ出します

ワキツレ二人
「恐ろしやかゝる憂き目をみちのくの。
安達が原の黒塚に。鬼こもれりと詠じけん。
歌の心もかくやらんと。
三人歌「心も惑ひ肝を消し。心も惑ひ肝を消し。
行くべき方は知らねども。
足に任せてにげて行く、足に任せてにげて行く。



この詞章は、

陸奥の安達原の黒塚に
 鬼籠れりと言ふはまことか(拾遺集・雑下/平兼盛)

に基づいています

出端──の囃子で鬼女の姿の後シテが登場します

そして山伏たちに怒ります

「如何にあれなる客僧。とまれとこそ。
さしもかくしゝ閨の内を。あさまになされ参らせし。
恨申しに来りたり。
胸を焦がす炎。咸陽宮の煙。紛々たり。
地「野風山風吹き落ちて。
シテ「鳴神稲妻天地に満ちて。
地「室かき曇る雨の夜の。
シテ「鬼一口に食はんとて。
地「歩みよる足音。
シテ「ふりあぐる鉄杖のいきほひ。
地「あたりを払って恐ろしや。



恐ろしい鬼です
詞章もとても強そうです

鬼一口──は伊勢物語六段あたりに出てくる言い方

山伏たちは、鬼を怖がって逃げたとはいえ
もともと山伏なので、鬼にたいして祈り始めます

祈り

ワキ「東方に降三世明王。
ツレ「南方の軍荼利夜叉明王。
ワキ「西方に大威徳明王。
ツレ「北方に金剛夜叉明王。
ワキ「中央に大日大聖不動明王。



他の作品にも出てきます
五大尊明王を勧請します
道成寺にも出てきたかな
葵上にも出るようです

さらに、陀羅尼(呪文)も登場します
なかなか、まがまがしい展開です

おんころころ せんだりまとうぎ
  (薬師如来に祈る呪文)
おんなびら うんけんそわか
  (大日如来に祈る呪文)
うんたらかんまん
  (成就、吉祥の意味。呪文の結びに唱える)



「うんたらかんまん」
うんたらかんたら──という表現に関係あるんでしょうか?

次は不動明王が衆生を救う誓いの四箇条だそうです

見我身者。発菩提心。
 (我身を見る者は、菩提心を発せん)
聞我名者。断悪修善。
 (我名を聞く者は、悪を断ち善を修せん)
聴我説者。得大智恵。
 (我が説を聞く者は、大知恵を得ん)
知我心者。即身成仏。
 (我心を知る者は、即身成仏せん)



というふうに祈り続けると、だんだん鬼女は弱って行きます
仏の力は強いです

即身成仏と明王の。繋縛にかけて。
責めかけ責めかけ。
祈り伏せにけり
さて懲りよ。

シテ「今まではさしも実に。
地「今まではさしも実に。怒をなしつる。鬼女なるが。
忽ちによわりはてゝ。
天地に身をつゞめ
眼くらみて。足もとは。よろよろと。
たゞよひめぐる。
安達が原の。黒塚に隠れ住みしも
あさまになりぬ。あさましや愧づかしの我が姿やと。
云ふ聲はなほ。物冷まじく。
云ふ声はなほ冷まじき夜嵐の音に。立ちまぎれ。
失せにけり夜嵐の音に失せにけり。



そして老女は消えて行きます



・参考資料

http://www.kanazawa-bidai.ac.jp/~hangyo/utahi/text/yo236.txt

日本古典文学全集『謡曲集(2)』(小学館)

・能の基本
 (前書いたもの)
 http://kuzukiria.blog114.fc2.com/blog-entry-3.html


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